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大阪地方裁判所 昭和39年(む)53号 判決

被疑者 小林正明

決  定

(被疑者氏名略)

右の者に対する詐欺被疑事件について、昭和三九年二月二四日大阪地方裁判所裁判官山路正雄がなした勾留請求却下の裁判に対し、即日大阪地方検察庁検察官清水博から適法な準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原裁判を取消す。

理由

本件準抗告申立の趣意は、検察官提出にかかる準抗告及び裁判の執行停止申立書に記載のとおりであるが、これを要するに原裁判官は本件勾留請求にその理由と必要性のあることを認めながら、これに先行する緊急逮捕の手続が違法であるとして右請求を却下したが、右緊急逮捕手続は適法であつて原裁判はその判断を誤つたものであるから、これを取消し勾留状の発付を求めるというにある。

ところで一件記録によると、大阪府天王寺警察は昭和三九年一月三一日被害者から本件詐欺の事実について申告を受けていたところ、同年二月二二日夜右被疑者の元同僚と被害者とが被疑者を同行して同警察署に出頭したので、被疑者に対し任意取調べをなした上、罪証隠滅逃亡のおそれありと判断して右被疑者を緊急逮捕し、翌二三日午前一〇時三〇分大阪地方裁判所裁判官に対し逮捕状請求の手続をなし、同裁判所裁判官青木暢茂から逮捕状の発付を受けていることが認められ、以上の経過、ことに被害者が本件被害を申告した当時既に被疑者が所在不明であつて、被害者等が被疑者を発見し警察に同行して初めて警察はその所在を確認し、被疑者を取調べたものであり、被疑者を警察において連行出頭させたものでない事情を考慮すれば、右逮捕手続には格別違法の点があるとは考えられない。

なるほど、警察が本件被害を知つたのが右逮捕より二二日以前であり、また遅くとも四日前には被疑者の所在不明であることを知つていたことは、原裁判官指摘のとおりであつて、その間通常逮捕状請求の余裕があつたことは明白である。しかしながら、本件事案の特殊な性格、犯行の態様、被害額等を考慮するとき、警察がその段階で直ちに強制捜査に踏み切らず任意捜査を続けたことは一応理解できるところであり、このような場合、あらかじめ通常逮捕状を準備しなかつたことから直ちに緊急逮捕手続の緊急性の要件を欠くとは云い得ないものと考える。また仮にその点に瑕疵ありとしてもその瑕疵は本件勾留請求を却下すべきまでに重大なものとは認められない。

しかして一件記録によれば、本件勾留請求はその理由と必要性があると認められ、本件準抗告は理由があるので、刑事訴訟法第四三二条第四二六条第二項に従い主文のとおり決定する。

(裁判官 田中勇雄 権藤義臣 油田弘佑)

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